自閉症スペクトラムの養育における実践的な支援の目的は、自閉症の特徴が弱い人たちの中から少しでも二次的な問題(不安障害・うつ・ひきこもりなど)の発生を抑えて非障害自閉症スペクトラムの人たちを増やすことです。
特に思春期より前の支援では、二次的な問題の予防を最重要課題とすることです。大切なのは、早期発見(自閉症スペクトラムの特徴を)して、乳幼児期から自閉症スペクトラムの発達スタイルに応じた育て方、接し方を実践することです。これは前の記事で紹介した『意欲のエネルギーを蓄える』時期の支援です。具体的な支援の内容を見ていきましょう。
乳幼児期・学童期の実践養育
保護的な環境を整備
絶対に失敗しないためのおぜん立てです。この時期は世間の荒波にもまれる必要はありません。この時期に失敗したり、傷ついたりすることはトラウマとして記憶され、将来フラッシュバックを起こしやすくなります。なぜこんなことでこんなに自信満々なの?と思われるほど自信をもたせて育てると、成人期の適応がよくなるそうです。
得意なことを保障する
子どもが得意とすることを存分に褒めます。さらに人と違う個性が出た時にこそ、他の人との違いを褒めます。「できて当たり前」などと、勝手にハードルを上げずに得意なことを十分に褒めて自信を形成させることが大切です。
苦手なことの特訓はしない
思春期以前に苦手なことの特訓を強要されると、二次的な問題の発生リスクを高めます。思春期以降に自発的な動機付けができて、本人が必要と思うまで苦手なことはそおっと放置します。
相談してよかった経験をさせる
自閉症スペクトラムの人たちが最も苦手とする『相談』の成功体験を積ませます。自閉症スペクトラムの特徴として、最も困っていることについて肝心な時には話さないということが、成人期にもみられます。
何ができないのか。何をして欲しいのか。を丁寧に確認して、子どもに寄り添いながら一緒に解決する経験を一緒に増やしていきます。
早期発見(診断告知)の重要性と方策
思春期以前の乳幼児期から学童期までに「意欲のエネルギー」をたっぷりと蓄え、思春期以降の2次的問題を抱え込まないための具体例を紹介しました。
この発達に応じた養育スタイルを実践するためには、何より自閉症スペクトラムの特徴を早くとらえることです。地域によっては積極的に取り組んでいるところもありますが、まだ地域によってばらつきがあります。そのため知っていてほしいいくつかの段階があります。
- 1歳半検診での様子
- 3歳児検診
- 保育士さん、幼稚園の先生の様子観察
- 小学校教諭の観察
親への告知
親への告知すすんでる?現状の地域医療
私の場合もそうでしたが、どうしても親は今見えている子どもの問題点が「一過性のものだと思いたい」「この問題が障害かどうか心配だ」という2つの視点の間で揺れ動きます。それは、自閉症スペクトラムの子どもは発達が一様に遅れるのではなく、得意な領域と苦手な領域があるために余計に判別しずらい点もあるからです。
親の観察はもちろんですが、そうした不安に揺れ動く親の気持ちとは別の第三者の冷静な指摘が早期から自閉症スペクトラムを把握し、養育スタイルを実践する大切なファクターとなります。
子どもの発達の問題を親に伝える
- 子どもの得意な領域・苦手な領域をを具体的に示す
- その特性が生涯続く可能性が高いこと
- 苦手な領域の訓練に比重をかけ過ぎないこと(リスクを高める危険性も含め)
地域の第三者の視点から問題提起され、専門家のもと子どもの発達の問題を親に告知する。それは診断名を伝えることでもありますが、「支援するべき少数の”種族”」だということを告知することだと思います。
早期療育の取り組みは治療ではありません
自閉症スペクトラムの特徴を持つ子どもを早くから認識して療育に取り組む目的は、治療ではありません。冒頭にありましたように、二次的問題を抱えないことで非障害自閉症スペクトラムとして生活していくことを目的としているのです。
著者の本田秀夫医師は、地域医療センターで乳幼児から自閉症スペクトラムと診断され成人されている方や、早期から訓練を受けて成長した人をたくさん診察してきている経験から、自閉症スペクトラムは特徴の濃淡こそあったとしても決して消えることのない特徴として残るそうです。
大切なのは一刻も早い時期から「ソーシャル・スキル」と「自律スキル」を身に付けることだといいます。
ソーシャル・スキルと自律スキルを身に付ける
「合意」の習慣を身に付ける
自閉症スペクトラムの子どもの多くは、他者の視点への配慮が難しいといいます。また、曖昧なことや一貫性のない事態に対して、著しく不安を覚えます。そのため厳しい指示や命令はもちろん、一貫性のない自由を与えられるとストレスをため込み、混乱してしまいます。
「合意」は、誰かの提案に他者が同意することです。提案は、指示や命令ではありません。また、同意は服従ではありません。一方で他者の提案に同意することは、1.その提案が自分にとって納得のいくものなのかという判断と、2.他者と自分の意見の照合が必要です。「合意」が成立するためには、この1と2、すなわち自律スキルとソーシャル・スキルの両方が必要になります。
早い時期から、合意によって行動を決定する習慣を身に付けていくことが重要です。
自律・ソーシャルスキルを大切にする価値観
自律スキルは年齢とともに自分で物事を構造化することを少しずつ練習していきます。自分でやることリスト(計画表)を作って視覚化を練習します。このようなちょっとした工夫で一人でできなかったことができるようになる、という経験を増やしていけることが理想です。
ソーシャル・スキルは「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」を少しずつ学びます。自分の行動を他人に把握してしてもらうという習慣を身に付けておく必要があります。休みの日に勝手にどこかに行ってしまう、などという社会性の少なさを育てるために、誰かに「自分が誰と何時にどこに行って何時に帰る」という報告をする習慣をつけます。これは、「人に報告ができる」「人に相談できる」という習慣で「何かを人と一緒にやって、良い結果に終わった」体験が必要です。
やってはいけない特訓例
一般の子育てでは大切にしたいことも、自閉症スペクトラムの子ども達にとっては苦手克服の特訓につながることがあるので注意が必要です。
無理矢理挨拶・・・要求水準が高すぎます。挨拶抜きでいきなり各論的な話や遊びに入っても構わない。
言葉かけ・・・幼児期「言葉かけをいっぱいしてください」と指導する人たちがいます。けれど、自閉症スペクトラムの子どもたちにとって、言葉かけの量が増えれば増えるほど、情報が増えてしまい結局何を言われているのかわからなくなってしまいます。
教科学習の特訓・・・境界知能の子どもは小学校低学年から学業不振となります。けれど、「頑張ればついていける」くらいの不振なため、親が教科学習の特訓をすることが時間の大半をしめて生活に必要なことを学んだり、生活を楽しんだりする時間がなくなってしまいます。
勉強に多くの時間をかけすぎると、得意なことを伸ばすこともできなくなります。
自閉症スペクトラムの子どもとゲーム
自閉症スペクトラムの子どもの多くはゲームが好きらしい。また、はまりやすいという性質上ゲームをもたせるとずっとゲームをしてしまう子も多くいるそうです。著者の本田医師いわく、
「ゲーム」「ゲーム以外の趣味」「勉強」という3つの選択肢のうち、どれか1つを捨てなければならないとしたら、勉強は大嫌いというお子さんの場合、勉強はもう捨ててください。
自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体
だそうです。子どもがその後の人生を豊かに過ごすために本当に必要なことは、勉強いがいにあるそうです。
⇒ちなみに我が家では、ゲームは基本的にやりたい放題。宿題(公文も含む)とピアノの練習をこなせば後は自由時間。と、著者の本田医師が猛烈に反対しそうなパターンです。
自閉症傾向の問題か、末男は何時間もゲームをしません。それがYoutubeになったり、私のお手伝い(特に料理が好き)だったり興味がうつろいやすいです。あえていうなら、ゲームよりYoutubeですね。これからは、買い物に散歩、外界に興味を向ける努力をしたいと思います。
思春期以降の支援
思春期前までは、保護的な環境を与えてきました。思春期以降は積極的に挑戦や試行錯誤をさせてみます。思春期前に貯めてきた意欲のエネルギーを糧に失敗が起こることも覚悟のうえで試行錯誤させてみるのです。ただし、大前提は良き協力者や理解者がいる「支援つき試行錯誤」で。
また、二次的問題を抱えていないことも大前提になります。
親の役割
親は思春期を迎えた子供の黒子のような存在となり、見えない存在ながら子供の試行錯誤を支えることが重要です。
また、子どもがSOSを出した時サインにいち早く気づくことです。「やっぱりやめたい。」と言える子と言えない子がいます。イライラしているな、朝起きられなくなってきた、学校に行くのをしぶるようになった。など、ちょっとしたサインから子どもの気持ちに共感できることが大切です。また、そのような人間関係を経験することが、成人期以降を支える大切な要素になります。
目標と自信
思春期以降の自閉症スペクトラムの人たちを力強くする要因として
- 目標が定まっている人
- 自分の力で選択や判断をしていると思えている人
- 難関や挫折を自分の力で克服できたと思える人
を目指すことです。例え失敗しても、失敗の後に立ち直ってうまく解決すると自信になります。
進路選択
IQ75~90 境界知能
境界知能で自閉症スペクトラムの人たちにとって適切な高等教育の場がないという問題があります。IQ75~90のいわゆる境界知能の人には多くの地方自治体での知的障害手帳が取れません。
知的水準より1ランク下の進路を考えるのが適切です。(軽度知的障害の人向けの進路設定)
もっとも理想とされるのが特別支援教育を受け、障碍者就労支援サービスを利用して就労を目指すことです。知能的障害の手帳が取得できれば、知的障害の特別支援学校に通えます。高等教育としてはわが国で保障できるものの中で最も画期的なものです。l
全般的な知的障害がある場合
通常の就労が難しくなる場合があります。特別支援教育や障碍者雇用などの道を選択することになります。二次的な問題を併発している場合には就労を考える前に二次的な問題の解決が課題となります。
知的障害のない場合
高校以降の高等教育は、知的障害のない自閉症スペクトラムの人たちにとって過ごしやすい場になることが多くあります。校風も自分に合わせたり、得意教科の割合が増えるなど自分の得意な領域が生かされる時期ですらあります。けれど大学生活を経て、就職できない自閉症スペクトラムの学生がたくさんいます。
就労をめぐる問題
二次的な問題を何とか予防できて、成人期に達した自閉症スペクトラムの人たちもスムーズに就労できる保障はありません。その中で大切なことがあります。
支援つき試行錯誤の支援者を求める・・・親以外の支援者を置く必要があります。上司や同僚に相談相手や助言者が得られる。身近に得られない場合は福氏の相談支援者を求める必要があります。
自分で試行錯誤しようという意欲
乳幼児期から成人期に至るまでの間に自閉症スペクトラムの人たちがもっとも身に付けておかなければならないスキルは、つまるところこの2点です。
知的障害の段階に応じての将来
「自閉スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体」の後半は思春期から成人・就労期にかけての自閉症スペクトラムの人たちの現状でした。実際、知的障害の有無・程度に応じて高校進学から就労にかけての障害に対する支援の有無、必要性が変わってきます。
境界知能の自閉症スペクトラムの人たちがもっとも支援や高等教育を受けにくく、その後の就労支援にも影響があることがわかり、実際の自閉症スペクトラムの人たちの知的分布に興味を覚えました。今の時点で、末男をみているとこの境界知能の自閉症スペクトラムに分類するのが適当だと感じます。そして、将来を悲観。うううううう。。。。
今私たちが末男にできること。それは、ある特有のコミュニケーションであっても信頼関係が築けるということ。そして、意欲エネルギーを蓄えるための環境整備。
日本の発達障害に対する福祉がどのように変化していくのかは、本田先生をはじめとする自閉症スペクトラムの専門家や団体にひとまずお任せしたい。
自身が「自閉症スペクトラム」かもしれない?と思う人や、隣人や同僚、恋人がそうかも?と思い当たる人をはじめ、わたしのように子供が(わたしも?)自閉症スペクトラムと分類されるすべての人が、手に取りバイブルとしていつも傍に置きたいこの本をこころからお勧めします。
本田医師の自閉症スペクトラムの人たちの観察、考察、そして自閉症スペクトラムの人たちを取り巻く環境の改善に尽力する愛情を感じます。これからの師の活躍にわたしたち親子も心から声援を送っています。

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